北京五輪のレスリング女子63キロ級で金メダルを獲得した伊調馨(綜合警備保障)と、同48キロ級で銀メダルを獲得した姉の伊調千春(同)が18日、北京市内のジャパンハウスで記者会見し、同五輪を最後に現役を引退すると表明した。
姉の千春は銀メダル獲得後、「北京でひと区切りと考えていた。レスリングにありがとうといいたい」と事実上の引退を表明。妹の馨も優勝直後のインタビューで、「(千春が引退したら)1人で戦ってもおもしろくない。今はロンドン五輪のことは考えられない」と、そろっての引退を示唆していた。
姉の無念を晴らした! レスリング女子63キロ級決勝で、伊調馨(24)=綜合警備保障=が、アレーナ・カルタショワ(26)=ロシア=を2−0で下し、前回アテネ大会に続いて金メダルを獲得した。今大会の日本勢では、6人目の五輪2連覇。前日の48キロ級では姉・千春(26)があと一歩およばず2大会連続して涙の銀メダルに終わった。姉が引退を示唆したことを受けて、試合後、馨も同調。姉妹そろって競技生活から退く可能性が浮上した。
涙が、止まらない。馨が、姉・千春のぶんまで泣いた。
決勝戦。第1ピリオドで右ひざ側副じん帯を傷め、延長戦では攻撃の優先権を取られたが、30秒間守りきった。第2ピリオドも延長戦にもつれたが、優先権は馨に。きっちり2ポイントを奪うとマットにひざまずき、両手で顔を覆い号泣した。五輪連覇へ、完全燃焼した。
「この4年間、きつかった。五輪のために千春と一緒に戦ってきた。千春は銀だったけど、2人で金を獲れた」
前日は銀メダルに終わった姉の試合をスタンド席で見届け、悔し泣き。2人の夢だった「姉妹で金」はならなかった。一夜明けても、そのショックを引きずった。無理に口に詰め込んだ食事を吐いた。検量は62.3キロでパスしたが、下半身に力が入らない。だが、最後までハートは折れなかった。姉のために−。
青森・八戸市の長者中までは同じ道を歩んだが、高校は別々。千春は東洋大へ進学したが、女子部員が3人しかおらず、伸び悩んだ。馨は全国各地から集まった強豪が20人以上ひしめく中京女大へ。向上心を満たす環境を姉に伝え、千春は特待生で入学した東洋大を2年で中退。妹がいる中京女大へ入り直した。
アテネ五輪では、自らの決勝前に千春が惜敗。練習場のテレビで試合を見ていた馨は泣き出した。パニック状態のなか、駆け込んできた姉はいった。「私は勇気がなくて負けた。カオリンは勇気を出して攻めれば勝てるよ」。残り21秒で逆転した。姉あっての妹。“一心同体”だった。
前夜、深夜に選手村へ戻ってきた姉は、妹にプレッシャーを与えないよう、この日の朝はあえて言葉をかけなかったが、決勝前に声をかけた。「絶対に金を獲るんだよ」。姉の無念さは、妹の力にかわった。
馨は北京入りするまでは、12年ロンドン五輪まで3連覇することを明言していた。だが、姉が前日の敗戦後、「ひと区切りをつけたい」と競技から身を引くことを口にしたことを受けて、「ならわたしもひと区切り。千春がいなくなったら、(レスリングを)続ける意味がない」と衝撃の“引退発言”も飛び出した。
1つの不戦敗を除けば、03年以来98試合で無敗を誇る。馨は本来、59キロ級が適性階級だが、無理をして五輪で実施される63キロ級で戦っている。中京女大付高から9年間指導する栄和人コーチ(48)は「(今後は)いまのままじゃ難しい」と、“筋属疲労”を認めた。
「次の4年間、こんなに苦しい思いをすると思うと、ロンドンを目指すとは言い切れない。自分の気持ちが奮い立つようなら、がんばりたい」。馨の先は見えない。だが、2大会連続で姉妹でメダルを勝ち獲った偉業は色あせることはない。
号泣でした。